1. 被害妄想との出会い
義母は今考えると、60代の早い頃から被害妄想の症状が見られていました。しかし、当時の私たちはそれが認知症の症状であるとは全く考えておらず、単なる性格の変化やストレスの影響だと思っていました。
それまでは、夫の実家へ家族で訪れることが普通でしたが、義父が亡くなった後、義母の様子は次第に変わっていきました。具体的には、
- 「物がなくなった」と繰り返し訴え、私たちを疑う。
- 幼い子供たちに対しても「何かしたんじゃないか」と疑いの目を向ける。
- 物がなくなると「盗まれた」と決めつけ、私や夫を泥棒呼ばわりする。
こうした言動が頻繁に起こるようになり、私たちは冷静に対応することができませんでした。
2. 私たちの対応とその影響
夫は「昔はこんな人じゃなかった」と深く悩み、義母との関係に苦しみました。私自身も福祉の仕事に携わる前だったため、知識がなく、適切な対応ができませんでした。当時は今ほど認知症に関する情報が広まっておらず、「もしかすると認知症かもしれない」という発想にすら至りませんでした。
私たちは義母の言葉に傷つき、感情的にぶつかることが増え、喧嘩が絶えませんでした。その結果、義母との行き来が次第に減り、最終的には長い間疎遠になってしまいました。
その間、義母は実家の兄と一緒に暮らしていましたが、兄もまた義母との関係に苦労していたようです。
3. 知っていればよかった対応方法
今、介護職としての知識を持つ立場から振り返ると、あのとき以下のような対応ができていれば、関係が悪化することは避けられたかもしれません。
- 被害妄想を否定しない\
被害妄想は本人にとっては「事実」として感じられるものです。「そんなことはない」と否定するのではなく、「心配ですね」「探してみましょう」と共感の姿勢を示すことが大切です。 - 本人の安心を優先する\
物がなくなったと訴える場合、まずは「一緒に探してみよう」と声をかけ、本人の不安を和らげる行動を取ることが有効です。 - 適切な距離を取る\
被害妄想が激しいときは、感情的に対立しないように距離を置くことも大切です。落ち着いた頃に関わることで、関係の悪化を防げます。 - 周囲に相談する\
家族だけで抱え込まず、地域の包括支援センターや専門機関に相談することで、適切なアドバイスをもらうことができます。 - 認知症の可能性を早めに考える\
物忘れや性格の変化が見られた時点で、認知症の可能性を疑い、専門医の診察を受けることが重要です。
4. その後の展開
その後、義母と暮らしていた兄が膵臓がんを患い、義母より先に亡くなりました。この頃には私たちも義母の認知症を理解しており、兄と私たち家族で協力して対応していました。
兄の死後、義母を支えるため、私たち家族の近くで施設を探し、義母が安心して過ごせるようにすることを決めました。夫はこの頃には、過去に自分の理解が足りず、義母と衝突してしまったことを深く後悔しており、「施設入所ではあるけれど、自分たちのそばでできる限りの親孝行をしたい」と考えるようになっていました。
しかし、その矢先に義母は施設で拘束され、その結果急死してしまいました。突然の出来事に私たちは大きな衝撃を受け、悔しさや無念の気持ちを抱えることになりました。
5. 経験を通して伝えたいこと
私たちは義母との関係を悪化させてしまいましたが、今なら、当時の義母の言動が認知症による被害妄想だったと理解できます。
認知症の症状が現れたとき、家族はどうしても感情的になってしまいがちですが、
- 「本人には本人なりの世界がある」
- 「事実と違うことを言っていても、それが本人の現実である」
- 「正そうとするのではなく、寄り添うことが大切」
という視点を持つことで、少しでも穏やかに対応できるのではないかと思います。
当時の私たちのように悩んでいる方々が、この記事を通して少しでも冷静な対応ができるようになれば幸いです。
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