“家に帰りたい”と繰り返す認知症の母に、どう寄り添えばいい?──私の経験からあなたへ


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義母の「家に帰る」に戸惑った日々

義母が認知症を患っていたころ、施設からの通院のたびに、夫が外出に付き添っていました。病院では穏やかに過ごせても、施設に戻ると必ずと言っていいほど、車から降りようとしないのです。

「私はここには戻らない」「家に帰るから!」

時には涙を流しながら訴え、強く抵抗して職員さんを引っかいてしまうこともありました。

夫は、その姿に大きなショックを受けていました。

「外出がかえって母を混乱させているのでは」

「職員の方に迷惑をかけて申し訳ない…」

と、外に連れ出すことさえためらうようになっていったのです。


職場でも、同じような訴えを毎日聞いています

私が働く施設でも、「家に帰りたい」と繰り返す方は少なくありません。

「家族が待ってるから」

「子どもが帰ってくるから」

「こんなところにいちゃいけない」

そう言って、施設の中を出口を探して歩き回る姿。

その背中には、不安や寂しさ、言葉にできない混乱がにじんでいます。

“帰りたい”という言葉の裏にあるのは、安心したい、元の生活に戻りたいという切実な気持ちです。

そして、その想いは──

その人がどれだけ家族を大切にし、日々を丁寧に生きてこられたかの証でもあるのだと、私は感じています。


もしあなたが、デイサービスでのお母さんの様子を聞いて、ご家族として胸を痛めているのなら──

「今日はお母さん、ずっと“お家に帰る”って言ってました」

「落ち着かない様子で、何度も外を気にされていました」

そんな報告を聞くと、「寂しい思いをさせたのかも」「行かせるのはつらかったかな」などと、胸が締めつけられるような気持ちになることもあるかもしれません。

でも、そう感じてしまうのは、お母さんを大切に思っているからこそ

その思い自体が、すでにお母さんの心の支えなっているのだと思います。


「家に帰りたい」と繰り返すのはなぜ? 認知症によく見られる言動の意味

「最近、母がデイサービス中に“帰りたい”と繰り返していると聞いて、心配になっている」

そんな声は、決して珍しいものではありません。

認知症の方が「家に帰りたい」と訴えるのは、実は多くの方に見られるごく自然な反応です。

それには、いくつかの背景や心理的な要因があることがわかってきています。

認知症の方にとって、デイサービスは刺激の多い場所です。

  • 慣れない人たち
  • 新しい環境
  • 生活リズムの変化

そういった状況の中で、不安になり、「帰りたい」と訴えてしまうことはよくあることです。

「家に帰る=安心したい」という気持ちのあらわれであり、

ときには「大切な人と一緒にいたい」という思いが、強く出てくることもあります。

あなたのことを信頼し、安心できる存在だと感じているからこそ、

その姿が見えない時間に、不安が膨らんでしまっているのかもしれません。


心配しすぎなくても大丈夫。あなたの思いは、きっと届いています

「自分の判断は間違っていたのでは」

「もっと他の方法があったかもしれない」

そんなふうに悩むことがあっても、どうか、ご自身を責めないでください。

お母さんの不安定な言動は、環境の変化や体調、そして認知症という病気の影響によるものであって、

ご家族の選択や対応が間違っていたからではありません。

むしろ、あなたが日々お母さんのことを思い、見守っていることこそが、かけがえのない支えになっています。

その姿勢は、たとえ言葉にされなくても、きっとお母さんの心に伝わっているはずです。


帰宅後の過ごし方に、ちょっとした安心の工夫を

もし可能なら、デイサービスから帰ってきた後に、お母さんが落ち着ける時間や環境を用意してみてください。

たとえば:

  • 「おかえり」と笑顔で迎える
  • 好きな飲み物やおやつを用意する
  • 静かな音楽を流して一緒に過ごす

こうした小さな安心の積み重ねが、

「ここが自分の居場所なんだ」と感じられる手助けになります。


スタッフさんとの情報共有も、力になります

不安な気持ちは、一人で抱え込まないことが大切です。

「デイサービスで落ち着かない様子が見られるようで…」と、スタッフさんに伝えることで、日中の関わり方を一緒に考えてくれることもあります。

また、同じような経験をされているご家族もたくさんいらっしゃいます。

悩みを共有するだけでも、少し気持ちが軽くなることもあると思います。


最後に:あなたのそばが、きっとお母さんにとっての“帰る場所”

「帰りたい」という言葉には、

お母さんの愛情信頼がたくさん込められているのかもしれません。

それは、あなたが長い時間をかけて築いてきた関係の証でもあります。

どうか、日々の中で感じる戸惑いや葛藤も、大切な記録として、そっと心に留めてください。

そして、無理のない形で、これからも“今できること”を一緒に続けていきましょう。



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