「また泣いてしまって…」
「さっきは笑ってたのに、急に怒り出して…」
在宅介護をしていると、こんな場面に何度も出会うかもしれません。
認知症の母親が急に涙を流したり、笑ったかと思えば怒り出したり…。そんな感情の揺れに、どう対応すればいいのか、戸惑うことはありませんか?
感情失禁は、ただの“わがまま”や“気まぐれ”ではありません。脳の変化によって起こる「症状」のひとつ。今回はそんな感情失禁について、優しくわかりやすくお伝えします。
感情失禁とは?
感情失禁とは、「笑い」「泣き」「怒り」などの感情が、自分の意思とは無関係にあふれてしまう状態のことです。医学的には「情動失禁」とも呼ばれます。
たとえば、特に悲しい話をしていないのに涙が止まらなくなったり、ちょっとしたことで怒りが爆発したりします。自分でも感情をコントロールできないため、本人も混乱し、周囲の人も戸惑ってしまいます。
主な症状とは?
感情失禁の症状には次のようなものがあります:
- 理由もなく涙が出る
- 笑いが止まらない
- 些細なことで怒り出す
- 自分で気持ちを抑えられないと感じる
- 感情の切り替えが極端に早い
ときには、思い出話をしているうちに、現実と過去が入り混じり、誰かを家族と思い込んで語りかける方もいます。
実は、つい先日も職場で、ある利用者さんが別の方を「息子」と思い込み、涙ながらに話しかけていました。その姿に、私自身も胸が締めつけられるような想いになりました。わかっているのです、これは“症状”だと。でも、どうしても、切なさと、放っておけない思いが込み上げてしまうのです。
なぜ起こるのか?〜脳の変化と関係〜
感情失禁は、主に脳の前頭葉や側頭葉、脳幹の障害が原因とされています。これらの部分は、感情のコントロールに深く関わっており、脳梗塞や認知症、頭部外傷、パーキンソン病などでも見られることがあります。
認知症の方では特に、記憶の混乱や過去への回帰が感情と結びつき、思い出に涙したり、家族を思い出して寂しさに押しつぶされたりすることがあります。
どう対応すればいい?〜大切なのは「正す」より「受けとめる」〜
感情失禁の場面に出会ったとき、私たちにできることは「正す」ことではなく、「共感し、そっと寄り添う」ことです。
たとえば、認知症の母が誰かを家族と勘違いして涙していたら、
- 「違うでしょ!」と指摘するのではなく、
- 「○○さんのこと、大切に思ってたんだね」と受けとめてあげる。
それだけで、安心して涙を流せる場が生まれます。
介護者の心も守って
ただでさえ忙しく、余裕のない日々。感情の起伏が激しい相手に毎日向き合っていると、こちらの心が疲れてしまいますよね。
「わかってるけど、優しくできないときもある」
「イライラしてしまう自分が情けない」
そんなふうに感じるのも当然です。
だからこそ、自分自身の感情にも耳を傾けてください。たまには深呼吸をして、肩の力を抜く時間を。ヨガやストレッチなど、ほんの数分でも身体を動かすと、不思議と心が軽くなります。
「涙が出るのは、生きている証」
そう思って、今日もそっと手を差し伸べていきましょう。
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