認知症と身体拘束|家族として知っておきたかったこと

認知症のある家族が入院したとき、「安全のために身体を拘束することがあります」と説明されたら、家族はどう判断すればよいのでしょう。

私たち家族にも、今でも心に残っている経験があります。あのとき知っていたら、もう少し聞くことができたかもしれない。今回は、そんな家族の立場から身体拘束について考えてみたいと思います。

目次

「安全のため」と言われたとき

病院や介護の場では、転倒したり、点滴のチューブを抜いてしまったりする危険を防ぐために、身体拘束が検討されることがあります。

ベルトなどで体を固定することだけではありません。

自分で降りられないようにベッドを囲うことや、本人が外せないようなミトン型の手袋を使用することなど、行動の自由を制限する方法も身体拘束にあたる場合があります。

家族としては、「転んでけがをするかもしれません」「治療に必要な点滴を抜いてしまうかもしれません」と説明されれば、不安になります。

そして「安全のために必要です」と言われたら、医療や介護の専門職がそう判断するのだから、と受け入れることもあると思います。

私たち家族もそうでした。

私たち家族に起きたこと

認知症のあった義母は、当時、介護施設で暮らしていました。

ある日、体調を崩し、施設の方が病院へ連れて行ってくださり、そのまま入院することになりました。

入院時には、命にかかわるような深刻な状態だという説明ではなく、検査と少しの治療が必要だと聞いていました。

そのため私たち家族も、まさかその日のうちに亡くなることになるとは思っていませんでした。

入院して間もなく、病院から家族へ「検査を行うために身体拘束が必要です」という連絡がありました。

私たちは、検査のために必要なことなのだと思い、身体拘束をすることを承諾しました。

その後、病院から聞いた話では、拘束された義母は強く混乱し、大きな声で叫び続けていたそうです。

やがてその声が聞こえなくなったため、病院の方が様子を見に行ったところ、義母は呼吸をしていなかったと説明を受けました。

私たち家族は、そのときの義母の様子を実際に見ていたわけではありません。

また、身体拘束が義母の死に直接どのように関係したのかも、私たちには分かりません。

ただ、入院したその日に「検査のために必要です」と説明を受けて身体拘束を承諾し、その後このような経過を知らされたことは、今でも強く心に残っています。

当時の私たちは、身体拘束が本人の心や体にどのような影響を与える可能性があるのか、十分には知りませんでした。

病院から必要だと言われれば、それを受け入れるものだと思っていたように思います。

今振り返ると、

「拘束しない方法はありませんか」

「拘束することで、本人にどのような影響が考えられますか」

「どのくらいの時間なのでしょうか」

そんなことを、もう少し聞いてみてもよかったのではないかと思うことがあります。

身体拘束には、別の負担もある

身体拘束は、転倒などの危険を防ぐ目的で行われることがあります。

けれど、動きを制限されることで筋力が低下したり、認知症のある人が状況を理解できないまま拘束されることで、不安や混乱が強くなったりすることもあります。

特に認知症のある人にとって、「なぜ自分は動けないのか」が分からない状況は、とても怖いものかもしれません。

危険を防ぐために行われたことが、別の負担につながる可能性もある。

だからこそ、身体拘束については「安全のためだから仕方がない」だけで終わらせず、慎重に考える必要があるのだと思います。

家族も、もう少し聞いてみることができる

医療や介護の現場には、家族からは見えない事情もあります。

そのときの本人の状態によっては、緊急に対応しなければならない場面もあるでしょう。

それでも、家族が分からないことを尋ねたり、説明を聞いたりすることは大切だと思います。

なぜ必要なのか。どのくらい続けるのか。ほかの方法は考えられないのか。

ベッド周りの環境を変える、見守り方を工夫する、本人が不安になっている理由を探してみるなど、状況によっては別の方法を考えられることもあります。

すぐに判断するのではなく、できる範囲でもう少し話を聞いてみる。

私たち自身の経験を振り返ると、そんな時間を持つことにも意味があるのではないかと思っています。

あのとき知っていたら、と思うから

義母のことを振り返っても、あのとき何をすればよかったのか、今でも一つの答えがあるわけではありません。

当時の私たちは、そのとき分かる範囲で判断していました。

ただ、身体拘束には「安全を守る」という面だけではなく、本人の心や体に負担を与える可能性もあることを、もう少し知っていたかったと思います。

知っていれば、違う結果になったのかは分かりません。

それでも、もう少し質問することはできたかもしれません。

もし家族の入院や介護の中で身体拘束の話が出たときには、

「なぜ必要なのだろう」

「ほかの方法はないだろうか」

と、一度尋ねてみることも一つの選択だと思います。

本人の安全を守ることと、その人の尊厳を大切にすること。

その両方について、家族も医療や介護にかかわる人たちと一緒に考えていけたらと思います。

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